□クマムシ/2003.5.10/植松健一

僕が、高校生のころです。
『ムササビ見に行かない?』と友人にさそわれたことがありました。うーん...ムササビ?...!..『そりゃ、いくっしょ』ともちろんひとつ返事でお受けしました。ワキの膜でビューンって飛ぶアレです。
何せその時のクラスの担任がムササビ学会(そんなものあるのかも知りませんが)では権威だったみたいで普段からムササビの話ばかり。いやがおうでもムササビへの期待感が高まります。そんなワクワク感頂点で夜の高尾山へ。もちろん素敵なリフトも、便利なケーブルカーも真っ暗。え、徒歩で?....徒歩です。1時間後、ゲッソリで中腹に到着。ムササビくんは『だるぅ』といってるかどうかは分かりませんが、どうやら御機嫌ななめらしく、ちっとも出てきません。登山でゲッソリな僕のとなりにいた生物部のもっさい男の子は、なぜかナナフシ片手に大興奮。グリグリ僕に押し付けて無言でアッピールされます(涙)少しは大人になった今の僕なら、ナナフシにも『うわぁ、すっごーい!!』のひとことも満面の笑顔で返しますが、当時の僕はナナフシなどどーでもよくて『ホント勘弁して』と遠くに見える町並みをバックにうすら暗い顔でかえりたぁ〜いと心の中でリフレインするばかりでした。当然僕ばかりでなく、寒いし、腹減るしで言葉少なになってきた他十数人の仲間に担任が気付いたのか、彼はちょっと気の効いた話をし始めたのです。
『高尾山には●●っていう虫みたいのがいてね、宇宙から来たっていわれてるんだ。そいつはさぁ、真空にしても、Xを照射しても死なない生物なんだ。詳しいことはまだ分かってないんだけど、カプセル状に変態するとね何百年って生きてるんだよね.....』
衝撃ーーーー!!それじゃ、エイリアンじゃないっスかーと、普段なら僕が吠えるのはいうまでもありません、が、驚きもお腹が減ってて、よく頭が廻ってませんでした。そして虫の名前も全然忘れちゃってて、●●って何よ、と十数年..........突然、名前思い出しました。その名もクマムシ。思い出してネットで調べまくりました。このクマムシくんはどんな生き物かというと、地球上の生物は37の門に分けられるのですが、緩歩動物門というめずらしい門に属します。人間は脊椎動物門ですが、人もカエルも魚もホヤもみんな脊椎動物門です。しかしクマムシはクマムシだけで緩歩動物門。そんなことでも、その特異さの片鱗が見えるすごいヤツ。上にも書きましたが驚くべきはその強靱さ。並みじゃないタフ。まるでケープフィア−のデニ−ロです。
クマムシくんは生命に危機が及ぶような状態になると、クリプトビオシスという変態状態(tun状態)にはいります。形がタル状にトランスフォームするのです。クマムシくんがこのtun状態では下記のような特性を得るのです。ブッとんだ数字に驚いて下さい。すごさっぷりがまるでウルトラマンの怪獣みたいです。
■耐乾燥 通常は体重の85% を占める水分を、乾燥状態では3% まで減らすことができ、代謝率を抑制します。そして、この代謝活動のない隠蔽生活状態で100年間(!)も生き残ることができます。
■耐温度 さらに、ほぼ絶対零度の -272 ℃ (報告によっては -253 ℃) から 151 ℃まで耐え抜くことができます。 液体窒素ぶっかけても死にません。
■耐X線 人間の致死線量(半数の人が致死)は約 500 レントゲンですが、tun 状態のクマムシの場合は 57 万レントゲンに耐えます。57万って...地球滅亡です。
■耐真空 tun 状態なら耐えられるそうです。 エイリアンですら宇宙空間では無力なのに...絶句です。
■耐圧 通常、微生物では 30MPa (megapascals) で増殖と代謝が止まり、300MPa でほとんどのバクテリアと多細胞生物が死にますが、tun 状態のクマムシは、600MPa (6000気圧)の高圧にさらしても 90% 以上の生存率を示したそうです。
どどど、どうですか、この生物は!隕石の中に閉じ込められて宇宙からやってきてもおかしくないと思いませんか?クマムシくんは高尾山に限らず、じつはコケのある場所にはたいていいるのだそうです。この生物のDNAを解析できれば、人類にも極限状態における生活の可能性が出てくるかもしれません。実現すれば、まさにX-MENみたいな世界ですが、これらが医療などに応用され新薬ができたり、食料の生産などに応用されれば極限状態の世界でも野菜などの食物が作れたりする時代が来るかも知れませんね。
ちなみに僕は食べたくありません(笑)


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